競走馬には、牡・牝=オス・メス以外に「せん馬」がいます。これは、去勢した牡馬のことです。去勢した時点で、当然ながらその子孫を残す道が閉ざされます。こうなると、もう走るしかない。優秀な牡馬が、引退後も種付け料などでもうひと稼ぎできるのに、タマ無しになったのですからそんな話はないわけで、とにかく競走馬のうちに稼いでもらわなければ・・・馬主がそう考えるのも肯けます。
しかし、せん馬の扱いというのは、国内においては優遇されているとは言えません。現在、華々しいクラッシック(皐月賞・ダービー・菊花賞)への出走は認められていません。また、天皇賞ではやっと最近になってその出走が認められるようになりました。元来、日本競馬は優秀な国内産馬を育成していこうという考えがありますので、外国産馬とともに、せん馬は冷淡に扱われてきたわけです。
去勢というのは、元々素質があるのに気性が荒く、その能力を全開できない馬に施されるものです。なにも、牧場にいた時から実は好きになる子が牡馬ばかりで、ある日調教師と馬主さんのまえでカミングアウト・・・
「今まで黙ってきたけど、アタシって体は男だけど心は女なの。」
「て、鉄男っ!おまえはいったい自分が何を言ってるのかわかってんのかっ!」
逆に、タマを取ったくらいでは激しい気性は完治せず、まともにレースができない馬のほうが多いのかもしれません。
国際GⅠ・ジャパンカップを勝ったレガシーワールドもせん馬でしたが、レース前に行う「返し馬」という、言わば準備運動を一切しませんでした。これをすると、この馬は騎手を振り落として停まることなくいつまでも走ってしまうからです。困った馬ですよね。
普通の牡馬なら、GⅠを勝ったのち競争成績が下降していけば、あるいはその前に、引退→種牡馬への道を歩むのですが、レガシーワールドは1993年のジャパンカップ優勝後も走り続けます。驚くのは、途中20ヶ月もの休養をもはさんでレースに復帰したことです。これがまさに「せん馬」の宿命といえるでしょう。しかし、さすがに往年の力を発揮できず1996年に引退し、その余生を牧場でのんびり送ることになりました。
現在は、心機一転おネェ馬としての新しい人生(馬生)を過ごしています・・・という報告は全くございません。念のため。
茂雄
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